弊社代表が、自らの言葉で自身を深掘りしながら、株式会社スタジオサカが大事にしていること・特徴を語っていきます。ぜひご覧ください!
株式会社スタジオサカ 代表取締役 坂 大樹
インタビュアー:新妻 幹生(合同会社イナヅマ)
知的好奇心は、私たちを新しい世界に導く力がある
― まず初めにおうかがいしたいのですが、大樹さんは当時どんな子どもでしたか?
そうですね、一言で言うと「イヤな子ども」だったと思います(笑)。と言うのも、周囲の同級生に比べて冷めた子どもだったんですよね。例えば幼稚園の頃「○○くんは先生と結婚したいって言うけど、僕たちが大きくなるころには先生もおばあちゃんになっちゃってるよね~」なんてことを思ってしまいましたし、実際にそれを、あまり臆することなく周りにも言ってしまうというような具合でした。
一方で、本を読むことに対しては熱量を発揮できました。本の中の文章というよりは、挿絵を見ている感じでした。その理由としては、グラフィックデザイナーだった父の影響が大きいと思います。例えば、様々な曲線を引く際に使用する「雲形定規」など、物心ついた時からデザインに関するちょっと特別な用具を見てきたので、単純に、絵を見ること・描くことに興味があったんだと思います。
― なるほど、そんな大樹さんが本格的にデザインを生業にしようと思ったキッカケは何だったんですか?
それがまた、偶然の産物でしかないんです。私は茨城県日立市の茨城キリスト教大学に進学したのですが、1995年に交換留学生としてアメリカのテキサス州に滞在したんです。その時アメリカで流行しつつあったのが、「HTML」というウェブページを作成するために開発された言語を用いたホームページ制作でした。HTMLを通して記述したスタイルが画面に反映されるさまは、私の中に全くなかった新しいデザインの形で、あっという間にのめり込んでしまいました。留学自体もとても素晴らしいものだったのですが、思い返すと空き時間はどっぷりHTMLを組む練習をしていたと思います(笑)。
― そんな偶然のできごとがあったんですね。そんな熱い想いを持って日本に帰国したあと、ホームページでの情報発信をここ水戸市で推し進めるようになった際のエピソードを教えていただけますでしょうか。
大学卒業後父の会社(現在のスタジオサカ)に入社する形で、ホームページ制作を広めていくことにしました。当時の取り扱い商材の99%が紙媒体のなか、ホームページのご提案を差し上げたところで「何それ?」「何ができるの?」が地域の反応でした。
しかし、アメリカで触れたHTMLを活用したホームページ制作は、確実にこれからの日本のスタンダードになる、と直感で思っていましたので、諦めずにホームページという存在を広めていくために奮闘しました。そのときは「間違えても直ぐに修正ができます!」「これまでのような紙の無駄が無くなります!」と、ホームページの良さを必死に語っていたと思います。
― そのような逆境の中でも、大樹さんが「ホームページを活用した情報社会化」への取り組みを諦めずできた理由は何なのでしょうか。
これもデザイナーである父譲りの性格なのですが、私の行動力の源泉は“知的好奇心”なんです。どんな行動を取るにしても、「これは自分がワクワクできることなのか?」という感情を何より大切にしています。都心と比べて保守的・閉鎖的な、ここ水戸市でホームページを拡げる活動ができたのは、初めてホームページに触れたときの刺激を忘れずに、自分の心に素直に行動が取れていたからでした。私の行動は時間ともに徐々に実を結び、はじめは「紙のパンフレットをホームページに落とし込む」という流れがほとんどでしたが(これ、とても大変でした)、はじめから「ホームページつくってよ!」と依頼を受けることも増えてきました。そのうちなんと、水戸市役所のホームページを他の市町村に先駆けて制作するに至りました(もちろん、今のホームページと比べたら情報量は少なかったですが)。情報発信においてホームページを活用することに徐々に前のめりになっていく社会を、ここ水戸市で形成する一助となれた。「知的好奇心は、私たちを新しい世界に導く力がある」と感じました。
― 新しいことを吸収していく習慣である“知的好奇心”、このマインドが持ち合わせているパワーを感じることができました。
さて、大樹さんを語るにあたって外せないエピソードが2019年に発症した脳出血、および脳卒中後遺症を抱えて現在も生活されているということですよね。
はい。発症したタイミングは、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう前、ホームページ業界の競争がどんどん激化している状況でした。46歳の私は、個人としても会社としても次のステップに、言うなれば、ただ実績を作り出すだけに留まらない、「他社と差別化するための“深み“」みたいなものを模索している最中でした。そんなある日、仕事から帰宅しようとしているときに突然意識がもうろうとし、そのまま病院に救急搬送となりました。結果として、一命は取り留めたものの、重度の左半身麻痺と高次脳機能障害が残る状態になりました。これは、脳卒中発症者のうち1/3の割合でなってしまうものです。
― 改めて、本当に大変でしたね。その時の大樹さんの正直な気持ちを教えてください。
もちろん、自分や会社はどうなってしまうんだろうという不安や恐怖がありました。しかし、今となっては「左半身麻痺になって良かった」とさえ思うこともあるんです。
ひとつは、「自分が全てやらないといけない」という、自分に自分で背負わせてしまっていた“呪い“から解かれたこと。私は父の後を追ってスタジオサカに入社した後、デザイナーとして第一線で働いてきました。しかし、強制的にこれまでのように働けなくなってしまったことがキッカケで、「自分ではない誰かにやってもらうこと」を考えるようになりました。
全部一人で背負わなくていい。
One Teamでマイノリティーな部分も含めた多面的な視点でクライアント課題を捉える
このことは何をもたらしたかというと、私が一人で考え、成し遂げようとしていた「スタジオサカphase2」、会社としての”深み“を出すことでした。冒頭お伝えした不安や悩みというのは、私だけでなく社員も同様に感じたことかと思います。しかし、そのとき同時に、社長である私が不在の中で、妻を中心に社員一人ひとりができることを必死に模索してくれました。スタジオサカの強みは30年以上の実務経験にあぐらをかかず、常に地域の皆さんのために社員一人ひとりが価値を発揮しようと自律的に働きかけられる会社であるということです。この一件があってから、社員はお客さまに対して中途半端な妥協はせず、本気の提案ができるようになりました。決してイエスマンになるだけではない、対等な関係の中で着実に信頼を獲得しています。
二つ目は、妻と二人で打ち合わせに行くようになった(二人でないと打ち合わせに行けない場面が多くなった)こともあり、女性と男性、健常者と障がい者など、気を抜いたら見逃してしまうマイノリティな部分も含めた多面的な視点で、クライアントの、ひいては地域の課題を捉えることができるようになりました。妻も当てはまる「30~40代女性」は、私たちのクライアント様が扱っている商材のメインターゲットです。彼女の意見も踏まえてディスカッションができることで、より地域・クライアントの課題やニーズにフィットしたアウトプットにつながるようになりました。全部一人で背負いこまなくてよいと腹落ちできたからこそ、One Teamでよりクオリティの高いアウトプットができるようになった。これもスタジオサカの大切な財産です。
三つ目は、「自分を知ること・向き合うこと」の大切さを改めて痛感したことです。入院中受けたさまざまな検査のひとつ『WAIS-Ⅲ(ウェクスラー成人知能検査)』で、私のIQは132あることが分かりました。この事実に直面した時、幼少期にどこか同級生に対して冷めた感情を持ってしまうことに合点がいき、それまでは「左半身が動かなくなってしまった」というマイナス要素ばかりに目が行っていたのが、「身体が動かなくても頭を動かせばいいんだ!」とポジティブ変換ができるようになりました。
50歳を目前にして新たな自分・本当の自分を知ることができたことに新鮮な感動を覚えました。病気がキッカケで新たな自分を見出した私に対して「左手も立派に仕事をしてくれているね」と、動かない左手に価値を見出してくれた人もいました。周囲の温かいお力により、新たな価値を見出してもらった私は、同様にクライアント様にもこんな想いを追体験してもらいたい、潜在的な魅力を引き出したい、と思うようになりました。もともと知的好奇心に忠実に生きてきた私は、この経験からより目の前の方々に向き合えるようになったんです。
また、自分自身にも向き合い続けるキッカケをくれたのもこの病気あってのことです。それまでも「本当にやりたいことがやれていないよなあ」とどこかで感じながらも、日々の仕事に忙殺されるあまり、”本当の自分”に向き合えていませんでした。障害を抱えてから私以外の脳卒中当事者の力になりたいという想いを持つようになり、脳卒中についての情報を発信するYouTubeチャンネル「世界はサカサマ!」を開設したのですが、これはまさに「自分にしかできない」「自分のやりたい」アウトプットでした。YouTubeを通じて多くの人の力になれているという実感と併せて、自分自身がやりたいことをやれているときの高揚感や満足感も味わうことができ、ピンチもいつ・どのようにチャンスに転じるか分からないなと心から感じました。
脳卒中の発症は、私たちの役割がどんどんAIにとって代わられてしまうこれからの時代だからこそ必要な、人間にしかできない「顧客粘着力※1」を養うことができたと思っています。
※1 英語のStickiness。ユーザーが商品やサービスに熱中・惹きつけられている状態を意味するマーケティング用語。
これまでの経験に固執せず、常に視野を広げる努力をし、脳みそをフル回転させて地域と顧客に向き合い続ける。ここ水戸市でずっと地域を彩るデザインを生業にしてきたからこそ、今の地域の衰退度合いは顕著に肌で感じます。それでも、本気で向き合い続けた方々には、ありがたいことに「坂さんの制作物には愛を感じる」と言っていただけることが増えました。これからも人間どうしだからこそできる、地域に開かれた“顔の見える“コミュニケーションをベースに、地域の課題を解決し、昨日よりもちょっと周囲を面白くできる、そんなデザインを生み出していきたいと思います。